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  ヒシの繁茂するため池の水質

 ヒシが異常繁殖している三重県津市大里窪田町の大沢池と、ヒシが生育していない津市一身田の新池の水質を透視度計を用いて測定した。

 透視度計による測定では、池の水がどの程度透明であるかが分かる。透視度計では、アオコや枯死した植物体の分解による水の濁りが把握でき、経費をかけずに水質の大まかな変化が分かるので便利だ。大沼・土山(2007)は、透視度とCOD(化学的酸素要求量)、全窒素、全リン、クロロフィルa、あるいはSS(懸濁物質)などの水質項目とに関連性が見られるとしている。透視度計は、100cmまで測定できる市販品を使用した。

 2007年10月11日から2008年11月18日までの大沢池と一身田新池の透視度の測定結果を下図に示した。この図から、枯れたヒシや池の底部に蓄積された落ち葉などが分解してできる有機物が、秋から冬にかけてため池の水の透視度を低下させる。大沢池では2007年11月5日以降、2008年1月8日まで透視度が低下したが、枯死した大量のヒシの茎葉の分解物が影響していると考えられる。水温が低い冬季には、有機物の分解が進まなくなり、底部と表面の水の循環が停止するために、2月中旬に透視度の値が大きくなる。なお、透視度は表面から10〜15cmぐらいの深さの水を汲み上げて測定している。

 しかし、2008年4月21日に大沢池の透視度が20cmを切るほどに急速に低下したが、これは、この頃から水田の代かきや田植えが始まり、水田の土壌粒子で濁った水が小川を通じて大沢池に流れ込んだことが原因として挙げられる。5月12日においても、まだ、この小川沿いの田んぼで田植えをするところが散見された。

 2008年6月12日の調査では、大沢池の透明性が著しく増した。その原因としては、田植えが終わったこと、低密度であるが池面の多くの部分がヒシの葉で覆われ水質浄化機能が働いたためと考えられる。

 2008年7月11日の大沢池の透視度は6月12日と同じ100cm以上であったが、透視度は一層向上していた。新池の水は無色透明であるが、大沢池の水は淡い黄褐色を呈している。8月10日調査では、一身田新池の水位が日照りのために100cm程低下していたが、透視度は100cm以上あった。大沢池の透視度はやや低下した。

 2008年10月12日の大沢池、新池の透視度は低下していた。特に、大沢池の透視度は35cmと低下した。この日の大沢池のヒシの状況は、ため池の西側部分では全く見られず、東側部分では薄っすらと残る程度であった。大沢池でのヒシの消失は前回調査(8月20日)の時点にも始まっていて、前年、前々年よりも早く、ジュンサイハムシなどの食害が影響しているようである。他のヒシの繁茂する殿村池、釜ヶ谷池(約1.2ha)ではヒシの消失は進んでおらず、両池では透視度がいずれも100cm以上あった。従って、大沢池の透視度の低下は、9月という水温が高い時期のヒシの急速な枯死・消失、分解によるものであることが分った。新池ではヒシは生育していないが、雑木林に囲まれた部分が多く、ヨシ原の面積が比較的多いために、秋になると枯れた植物の分解が進むために透視度がやや下がると考えられる。

 2008年11月18日に、大沢池、新池の他、夏にヒシが繁茂していた岩田池、殿村池、釜ケ谷池の透視度を測定した。殿村池と釜ケ谷池は、ヒシの枯死、消失が10月から11月にかけて起こったが、透視度は100cmを超えていた。このことから、ヒシの枯死、消失が必ず水を濁らせ、透視度を低下させるということではないことが分った。大沢池の透視度の低下の原因は、秋口の早い時期の急速な枯死、分解に加えて、小川の流入による物理的な水の攪拌、および窒素、りんなどの流入・蓄積も影響しているのではないかと考えられる。

 以上が、2008年11月までの2つのため池の透視度の推移である。なお、2006年11月30日に手製の透視度計によって大沢池と一身田新池の透視度を測定したが、それぞれ、19.6cm、54cmであり、2007年および2008年と似た傾向を示している。

(グラフの縦軸は透視度で単位はcm、透視度計の目盛りは最大で100cm。横軸は年月日を示し、71011は2007年10月11日を意味する)。



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